
Symbols Of Life / For The World
静けさの奥に燃える情熱、魂を揺らすSpiritual House
1998年、NYのアンダーグラウンドHouse シーンにおいて、ひときわ異彩を放つ作品として静かに支持を広げたのが今回レコメンドするSymbols Of Life / For The World です。Joe Claussell率いるSpiritual Life Musicからのリリースという時点で、その音の方向性はある程度予測できるかもしれませんが、本作はその期待をさらに一歩深い領域へと押し進めた1枚と言えるサウンドに仕上がっています。ブルガリア出身のDJ Luchoといえば、La CubanitaやEl Rumbero名義で聴かれるLatin〜Cuban色の強いアグレッシヴなトラックが印象的ですが、このSymbols Of Life名義では一転、内省的でスピリチュアルなDeep Houseへと舵を切っていて、その変化こそが本作最大の魅力となっています。単純にフロアを盛り上げるためのHouseではなく、リズムの反復によって聴き手の意識を少しずつ音の奥へと導いていく…そんなSpiritual Houseならではの深い世界観が、この12インチにはシッカリと刻み込まれています。
パーカッションとヴィブラフォンが描き出す静かなグルーヴ
イントロからタイトに刻まれるパーカッション…ムダを削ぎ落としたミニマルなリズムの中に、ジワジワと体を温めていくようなグルーヴが潜んでいます。そこに重なるのが、繊細なキーボードとヴィブラフォン…特にヴィブラフォンの音色は秀逸で、都会的な洗練を纏いながらもどこか郷愁を誘う響きが、リスナーの感情をゆっくりとほどいていきます。音数そのものは決して多くないのですが、それぞれの音が絶妙な距離感を保ちながら配置されていて、パーカッションの隙間からキーボードが浮かび上がり、そのさらに奥からヴィブラフォンの余韻が広がってくる…この立体的な音像がなんとも気持ちイイんですよね。大きな展開で聴き手を引っ張るのではなく、細かなリズムや音色の変化によって知らないうちにグルーヴの中へ引き込んでいく、このジワジワと効いてくる感覚こそ本作の醍醐味でしょうね。
「間」が生み出す美しさとNY Houseの深い精神性
中盤のブレイクでは、一度グルーヴが引き算され、空間が広がる瞬間が訪れます。その「間」が実に美しく、再びビートが戻る瞬間には、まるで意識が深く潜ったトコロから浮上してくるような感覚に包まれます。Houseミュージックというと4つ打ちのビートを延々と繰り返す音楽というイメージを持つ人もいるかもしれませんが、優れたHouseには音を鳴らすコトと同じくらい、音を抜くコトの美学があるんですよね。For The Worldでは、その余白が緊張感を生み、次に戻ってくるビートをより深くカラダへ響かせてくれる。この構成力は、当時のNY Houseシーンにおいても高く評価され、LoftやBody & Soulといった文脈でプレイされるコトも少なくなかったと思いますね。派手なエフェクトや強烈なフックではなく、フロア全体の意識をひとつのグルーヴへと導いていく…そんなDeep Houseの奥深い魅力をカンジさせてくれます。
For The Worldに宿る音楽を通じた共有体験
For The World というタイトルが示す通り、サウンド全体からは「世界や人とのつながり」をカンジさせるメッセージが滲み出ています。Joe Claussellのフィロソフィーでもある「音楽を通じた精神的な共有体験」が、このトラックには確実に宿っています。終盤に向かうにつれて、レイヤーされる音が徐々に厚みを増し、JazzyなベースラインとLatin由来のリズムが絡み合いながら、静かに、しかし確実に感情を高めていく…その高揚感は決してハデではないものの、深い多幸感として身体の内側に残り続けます。Houseという音楽の面白さは、必ずしも大きなサビやドラマティックな展開がなくても、同じリズムを共有し続けるコトによってフロアにいる人々の感覚が少しずつひとつになっていくトコロにもあります。このFor The Worldを聴いていると、Dance Musicが単なる娯楽ではなく、人と人を繋ぐための音楽でもあるというコトを改めてカンジさせられますね。
夜明け前にこそ聴きたい12インチの深い余韻
クラブのピークタイムではなく、夜明け前の時間帯もしくは、自宅でマッタリと音に浸る時間にこそ真価を発揮する1曲で、DJユースとしてはもちろん、リスニング作品としても極めて完成度の高いこの12インチシングルは、アナログでこそ味わいたい空気をシッカリと刻み込んでいます。こうしたパーカッシヴで余白の多いHouseは12インチで聴くと実に面白く、キックやベースの低域だけではなく、ヴィブラフォンの残響やパーカッションの細かなニュアンスまで空間の中へフワッと浮かび上がってくるんですよね。DJなら長い夜の終盤、フロアのテンションを無理にアゲるのではなく、残っている人達をさらに深いトコロへ連れていくための1枚として使いたくなるでしょうし、自宅なら照明を少し落として最初から最後までジックリと身を委ねたくなる。ハデな音ではナイからこそ、何度も聴くたびに新しい表情が見えてくる…そんな長く付き合えるDeep Houseです。針を落とした瞬間、パーカッションの奥から静かに立ち上がるその情熱に、きっと引き込まれるハズですよ。
